あの子は大きな布のよう、全てを包むし何でも放す、きっと空も飛べるかもしれない。小さい素敵な緑の庭に敷いて妖精たちが遊ぶ大きな布のよう。
あの子は地球と大気圏抜けて宇宙に咲く蓮の花のよう、その静かに大きな呼吸の音と風が、海や月や人の心をそっと震わす。さざ波のように繋がる振動の手綱。
あの子は曲がりくねった道で誰よりも真っ直ぐなボールを投げ続けている少年のよう、昔から、昔から。カーブでもフォークでもそれは誰よりも確かに真っ直ぐ届く。必ず。
あの子は丸くて少し霞んだガラスの球のよう、てのひらにそっと包んで中を覗くと青い炎がちらちらと揺れている、それは一見か細く弱々しいのにとても力強く何よりも美しい。
あの子は艶々としたオレンジ色の蜜柑のよう、ふっと香る果汁のみずみずしさにきっと誰もが立ち止まって一瞬何か大事なことを思い出すのだ。
あの子は深く静かに流れる細い水のよう、苔むした冷たい石の匂いがする場所、魚が空を飛ぶ、静かなパレード、いつか見た映画のような。
あの子は山のように大きな大きな見えない時計のよう、淡々と刻まれるゆっくりとした狂いのないリズムに、森の動物や鳥たちや恋人たちもいつのまにか集まって、みんな安心して眠る。暖を取って夢を見る。
けれど。
うさぎだけは軽やかに、そこからまた駆けて行くのだ。
うさぎは、かろやかに、駆けて行くのだ。
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